取引先の与信管理、なぜ販売先だけでなく仕入先も調べるのか

与信管理というと、販売先を調べる仕事だと思われがちです。売ったお金を、ちゃんと払ってもらえるか。

けれども、新しく取引を始めるときは、仕入先も調べます。お金を払う側なのに、なぜ相手を調べるのか。

自分の会社の信用度が低かったころ、仕入先から前払いを求められたことがあります。

お金は先に出ていきます。商品は、ちゃんと届くのか。払う側なのに、不安を感じました。

相手はこちらの信用を調べて、前払いという条件を付けてきました。ならば、こちらも相手を調べておかなければなりません。

販売先と仕入先では、調べる理由が違います。並べてみると、与信管理が何を守っているのかが見えてきます。

販売先を調べるのは、売掛金を守るため

販売先を調べる理由は、分かりやすいものです。

掛けで売るということは、代金を受け取るまで、相手にお金を貸しているのと同じです。相手が払えなくなれば、売掛金は戻ってきません。

そこで、取引を始める前に相手の財務の状態を調べます。いくらまでなら掛けで売ってよいかを決めるためです。これが与信の限度額です。

仕入先を調べる理由1:先に払ったお金が戻らない

冒頭の前払いが、まさにこの形です。仕入先とのあいだでも、こちらがお金を先に出していることがあります。

前払金や手付金を払っている。金型や材料を、仕入先の工場に預けている。仕入れの量に応じたリベートを、後から受け取る約束になっている。

仕入先が倒れれば、こうしたお金や資産を取り戻すのは難しくなります。払う側でも、相手の信用に頼っている部分があるのです。

理由2:仕入れが止まる

もう一つは、物が入ってこなくなるおそれです。

仕入先が倒れたり、事業をやめたりすれば、その仕入れは止まります。代わりの仕入先が見つかるまで、作れない、売れない、という状態になりえます。

とくに、一社からしか買えない部品や材料は要注意です。仕入先の状態を知っておくことは、自社の売上を守ることでもあります。

理由3:知らずに反社会的勢力と取引してしまう

三つめは、相手が誰なのか、という問題です。

2007年に政府の会議で申し合わされた指針があります。「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」です。暴力団は企業活動を装うなど、実態を隠すようになりました。そのため、知らずに取引してしまうおそれがある、と指摘されています。

販売先でも仕入先でも、取引をすれば相手にお金が流れます。お金を払う仕入先こそ、相手の資金源にならないよう確かめておく必要があります。

理由4:その取引は、本当にあるのか

四つめは、取引そのものが本物かどうかです。

実在しない会社を仕入先として登録し、代金を振り込ませる。複数の会社のあいだで、実態のない売り買いを回す。不正の手口では、仕入先がよく使われます。

新しい仕入先を登録するときに、所在地や登記、事業の実態を確かめる。この一手間が、架空の取引を入り口で止めます。

販売先と仕入先で、調べる観点を分ける

整理すると、次のようになります。

観点 販売先 仕入先
お金 売掛金を回収できるか 前払金や預けた資産、リベートが戻るか
事業の継続 取引が続くか 仕入れが止まらないか、代わりはあるか
相手の素性 反社会的勢力ではないか 反社会的勢力ではないか
実在 架空の売上の相手ではないか 架空の仕入先ではないか

同じ「取引先の調査」でも、何を守るために調べるのかが違います。販売先の様式をそのまま仕入先に使うと、見るべきところを見落とします。

一社しかない仕入先が引っかかったら

最後に、答えの出ていない問いを置いておきます。

調査で、ある仕入先の財務の状態が悪いと分かった。けれども、その部品はその会社からしか買えない。

取引をやめれば、自社の仕入れが止まります。続ければ、先に払ったお金や預けた金型が危うくなります。経理は、どこまで踏み込んで意見を言うべきなのでしょうか。