タンザニアで電子マネーが普及している理由は?(小川さやか「「その日暮らし」の人類学」)

借りを作りたくない

他人に対して、できるだけ「借り」を作らないことが良いことだろうと思っていた。金銭的な借りである借金や負債だけでなく、精神的な借りである依存や負い目も合わせてだ。しかし、考えるまでもなく、人間は誰だって一人では生きられないので、「借り」をゼロにすることはあり得ない。だから、できるだけ少なくしたいと考えていた。

タンザニアの事例

このような考えをひっくり返すような事例が取り上げられていたのが、小川さやかさんの「「その日暮らし」の人類学」(光文社新書・2016年)である。アフリカのタンザニアという、日本から遠い世界のことが興味深く書かれていた。固定電話が普及しずらかったアフリカでは、携帯電話の方が急速に普及しているということは知っていたが、電子マネーの送金サービスが社会を大きく変えているということは初耳だった。

送金サービス「エム・ペサ」

従来、「借り」は借りることよりも、貸した側が金の返済を依頼することに心理的負担が生じていた。このため、借りが精算されずに残ってしまうことが多かったのだ。送金サービス「エム・ペサ」がそんな状況を一変させた。「エム・ペサ」を使えば、少額にもかかわらず、いつでも・誰にでも送金が可能となったからだ。

借りを回す仕組み

仲間内でカンパを募ることもできるし、借金の返済も、督促が来た時点ですぐに他の人から借りて返すことができる。だから、貸した側の督促への心理的障壁が低くなったのだ。相互扶助の世界がITによって機能強化され、「借りを回す仕組み」ができあがっていると言える。

日本でもできるのか

スマホ普及の進んだ日本でも「おさいふケータイ」はある。でも、お店や交通機関での支払いに使うことはあっても、個人間での貸し借りに使うことはない。一方のタンザニアでは、FacebookなどのSNSの拡大と歩調を合わせるように、評価・信用・つながりによる経済圏ができあがっているのだ。

 

以上