棚卸資産の測定で押さえるべき重要ポイント(IFRS)

棚卸資産の測定で押さえるべき重要ポイント(IFRS)
1.測定の基本原則
棚卸資産は、「取得原価」と「正味実現可能価額(NRV)」のいずれか低い額で測定する。
これは、在庫が将来どれだけ回収できるかという回収可能性を常に意識するというIFRSの基本思想を示している。原価を積み上げるだけでなく、「その原価は本当に回収できるのか」という視点が不可欠である。
2.取得原価の構成
取得原価には、棚卸資産を現在の場所・状態にするために直接必要なコストのみが含まれる。具体的には以下の3要素で構成される。
- 購入原価:購入価格、関税、運送費など(値引・割戻しは控除)
- 加工費:直接材料費・直接労務費に加え、製造間接費
- その他の原価:特定の条件下で現在の状態にするために必要なコスト
一方、販売費、一般管理費、異常なロスや非効率によるコストは、原則として取得原価に含めない。
3.製造間接費と正常操業度
固定製造間接費は、正常操業度に基づいて配賦する。
操業度が低下しても、固定費を過剰に棚卸資産へ配賦することは認められない。非効率による未配賦額は、当期費用として処理される。この点は、在庫を利益調整の手段にさせないための重要なルールである。
4.原価算定方法の選択
原価算定方法として認められるのは、先入先出法(FIFO)または加重平均法であり、LIFOは認められない。
同種・同用途の棚卸資産については、方法を首尾一貫して適用する必要がある。方法の選択そのものが会計方針である点を意識する必要がある。
5.正味実現可能価額(NRV)の考え方
NRVとは、見積販売価額 − 完成までの追加原価 − 販売に要する見積コストで算定される。
市場価格の下落、陳腐化、損傷などにより原価が回収できないと見込まれる場合には、評価減を行い、原価をNRVまで切り下げる。評価減は期間損益に直接影響するため、慎重かつ継続的な検討が必要となる。
6.評価減の戻入れ
評価減の原因が解消し、NRVが回復した場合には、評価減の戻入れが認められる。
ただし、戻入額の上限は当初の取得原価であり、「過去の原価を超えて評価する」ことはできない。IFRSは、過度な保守にも過度な楽観にも偏らない設計になっている。
まとめ(ひと言で言うと)
IFRSにおける棚卸資産の測定は、
「原価を積む会計」ではなく、「回収可能性を問い続ける会計」
である点に本質がある。