コシダカHDが適用したスピンオフ税制とは何か?
スピンオフとは
スピンオフとは、企業が「選択と集中」を図るため、自社内の特定の事業部門や完全子会社を切り出して資本関係の無い別会社とし、経営を独立させる取組である。
経営の独立による迅速、柔軟な意思決定や、資本の独立による独自の資金調達や取引先の拡大が可能となり、スピンオフする側とされる側の双方にとって企業価値向上が期待される。
(経済産業省HPより)
経済産業省リリース
株式会社コシダカホールディングスの産業競争力強化法に基づく事業再編計画を認定しました
https://www.meti.go.jp/press/2019/10/20191010003/20191010003.html
経済産業省は、10月9日付で、株式会社コシダカホールディングス(法人番号:7070001003674)から提出された「事業再編計画」を産業競争力強化法第23条第5項の規定に基づき認定しました。
当該計画は、同社が保有する株式会社カーブスホールディングスの発行済株式の全てを同社の株主に対して現物配当すること(スピンオフ)による事業再編を行うものです。
これにより、株式会社コシダカホールディングスと株式会社カーブスホールディングスがそれぞれ独立した上場会社となり、各々の中核事業に経営資源を集中し、各事業の更なる拡大及び付加価値創出を図り、企業価値の一層の向上を目指します。
本件は、我が国企業による初めてのスピンオフによる事業再編となります。
日本経済新聞
スピンオフ税制、コシダカHDが初適用、傘下事業、独立会社として分離。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50835750Q9A011C1MM8000/
2019/10/11 日本経済新聞
東京証券取引所第1部に上場するコシダカホールディングス(HD)は10日、子会社を本体と資本関係のない独立した会社にする「スピンオフ」という仕組みを使って事業を分離すると発表した。子会社や事業の分離に税金がかからないようにした「スピンオフ税制」を利用する。2017年度に制度が整備され、適用は初めてとなる。
コシダカHDは「カラオケまねきねこ」のブランドでカラオケ事業を展開する。今回切り出すのはフィットネス事業を展開する子会社のカーブスホールディングス。東証への上場が認められれば、20年3月にカーブスHDの全株式をコシダカHDの既存株主に現物配当の形で割り当てる。コシダカHDと同じ株主のもとで独立した上場企業となり、成長を目指す。
従来の税制では事業の切り出しが「売却」と見なされ企業と株主が課税される懸念があった。こうした税制面の障壁を取り除くため17年度から一定の要件を満たせば事業の切り離し時に課税されない「スピンオフ税制」が導入された。
スピンオフは、親会社が株式の多くを保有したまま子会社を上場させる「親子上場」に比べ、分離した会社の独立性が高くなる。外部への売却に比べて機動性も高い。一方、コシダカHDには売却益は計上されず現金も入らない。経営者がメリットを感じにくく、これまで利用がなかった。
海外ではスピンオフによる再編が活発だ。米イーベイが決済のペイパルを切り離した例や、米ヒューレット・パッカードや独バイエルなどが活用している。米化学大手のダウ・デュポンは部門ごとに3社に分割した。
日本企業は多角化が各事業の競争力を阻害していたとの指摘もある。スピンオフ税制適用の初の事例が出たことで実務面でも整備が進み、日本企業の事業再編に弾みがつきそうだ。
日経新聞(スクランブル)
「スピンオフ」試練の船出―第1号コシダカ試金石に(スクランブル)
2019/10/12 日本経済新聞
税制面の優遇措置がある「スピンオフ制度」を使ってフィットネス事業子会社を分離すると10日に発表したコシダカホールディングス(HD)の株価が、11日急落した。同制度が2017年に整備されてから初の案件で、分離上場にあたっての新株発行と業績の伸び悩みが嫌気された。ただ海外投資家が警戒する親子上場問題の解決につながる大きな意義がある。
コシダカHDは「カラオケまねきねこ」ブランドのチェーン店を運営する。「(本体と子会社の)両社の企業価値を高めることになる判断だ」。長年調査し続けてきた日本ベル投資研究所の鈴木行生代表取締役主席アナリストは、スピンオフ制度の活用を高く評価していた。
通常は事業や子会社を切り離すと「売却」とみなされて企業と株主が課税される可能性がある。スピンオフ制度では一定の要件を満たせば課税されない。
分離するのはフィットネス事業を手掛けるカーブスホールディングスだ。10日に発表した19年8月期決算のセグメント別業績によると、カラオケ事業の営業利益は前の期比43%増の45億円で、カーブスは6%増の56億円。連結営業利益のほとんどをこの2事業で稼ぐ。カーブスは女性向けだが、海外展開や男性向け店を広げて成長を目指す。分離して独立したブランドとして経営する方が、企業価値を高められると判断した。
ところがコシダカHD株は寄り付き前こそ買い注文を集めたが、取引が始まると急落。一時前日比12%安まで売り込まれ2カ月ぶりの安値を付けた。7月に発表した19年8月期の上方修正値に営業利益、経常利益の実績が届かなかったことで「信用取引を手掛ける個人などが手じまった」(国内証券トレーダー)という。終値は10%安だった。
既存株主はスピンオフに伴い、コシダカHD株と新しいカーブス株を現物で受け取るため、理論的には大幅な減価は生じない。分離するカーブスは20年3月に予定する上場にあわせ公募増資も予定している。希薄化懸念はあるが詳細を詰めるのはこれからだ。
コシダカHD株に投資するある日本株投信の運用担当者は「企業の説明や11月の(スピンオフを決議する)株主総会を踏まえじっくり考えたい」という。カラオケ事業が不振の時はカーブス事業が、カーブスが伸び悩むときはカラオケが全体をけん引するなど、補完性もあると見るためだ。
個別の進捗もさることながら、市場参加者の多くは第1号案件が現れて「日本でも活発にスピンオフが実施される可能性が出てきた」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘チーフ投資ストラテジスト)とみている。
これまでは事業や子会社を独立させるには、丸ごと売却するか一部株式を売り出して上場させる選択肢が中心だった。結果として親子上場が増える一因となってきた。ただ運用会社の議決権行使の基準は厳しさを増しており、政府も見直しを求めるようになった。スピンオフ制度が広がれば、親子上場は次第に減っていく可能性がある。
米国ではイーベイやダウ・デュポンなど大手企業も頻繁に実施している。最近では、サードポイントがソニーに半導体事業のスピンオフを求めている。コシダカHDと、上場企業となるカーブスHD株がどう評価されるか。日本市場の構造変化を加速させるための試金石となる。(嶋田有)