海外の子会社の決算書を円に直すと、貸借が合いません。
ドルで作られた決算書は、もちろん貸借が一致しています。ところが、それを円に換算すると、ずれが出ます。科目によって、使う為替レートが違うからです。
この差額が、為替換算調整勘定です。為替差損益の記事の最後に予告した、もう一つの換算の話です。
科目ごとに、使うレートが違う
換算の方法は、外貨建取引等会計処理基準の「三」に書かれています。
| 科目 | 使うレート |
|---|---|
| 資産と負債 | 決算時の為替相場 |
| 資本(親会社が株式を取得したときにあったもの) | 株式を取得したときの為替相場 |
| 資本(取得のあとに生じたもの) | 生じたときの為替相場 |
| 収益と費用 | 原則として期中平均相場(決算時の為替相場も可) |
資産と負債は、決算日のレートで直します。資本は、生じたときのレートのまま動かしません。損益は、その期の平均のレートで直します。レートが一つではないので、円に直した決算書は貸借が合わなくなります。
数字で追うと
例で確かめます。期首に、純資産1,000ドルの子会社を、1ドル140円のときに取得したとします。当期の利益は100ドルです。期中平均のレートは150円、決算日は155円でした。
| 項目 | ドル | レート | 円 |
|---|---|---|---|
| 純資産(資産−負債)の期末残高 | 1,100 | 155円 | 170,500円 |
| 取得時の資本 | 1,000 | 140円 | 140,000円 |
| 当期の利益 | 100 | 150円 | 15,000円 |
| 差額(為替換算調整勘定) | 15,500円 |
資産と負債を決算日のレートで直すと、純資産は170,500円になります。一方、資本と利益を、それぞれのレートで直して足すと155,000円です。この15,500円の差が、為替換算調整勘定です。
円安が進めば、子会社の純資産の円での値打ちが増えます。為替換算調整勘定はプラスに動きます。円高なら、逆です。
為替差損益との違いは、載る場所
為替換算調整勘定は、為替差損益と違って、損益計算書を通りません。
基準は、この差額を「資本の部に記載する」としています。今の連結財務諸表では、純資産の部の、その他の包括利益累計額の中に載ります。
円安で子会社の円での値打ちが増えても、その分は当期の利益にはなりません。利益になるのは、為替差損益のほうだけです。
為替換算調整勘定は、何を表しているのか
では、この差額は実質的に何なのか。
親会社から見ると、海外の子会社の純資産は、外貨で持っている投資です。円安になれば、その投資の円での値打ちは増えます。円高になれば、減ります。為替換算調整勘定は、この増減の累計です。つまり、海外の子会社への投資にかかる、為替の含み損益です。
含み損益なので、子会社を持っている間は確定しません。だから利益にせず、純資産に置いておきます。子会社を売ったり清算したりしたとき、はじめて実現し、損益に振り替わります。
基準にも、この考え方が表れています。子会社への投資そのものを為替予約などでヘッジした場合の扱いです。ヘッジ手段の換算差額を、為替換算調整勘定に含めてよいとされています(注13)。為替換算調整勘定が、投資の為替リスクを映す勘定だからです。
親会社との取引は、親会社のレートで
もう一つ、実務で気をつけたい定めがあります。
子会社が親会社と取引した分の収益や費用は、期中平均相場では直しません。親会社が換算に使ったレートで直します。そこで生じる差額は、当期の為替差損益にします(基準「三」3)。
親会社の売上と子会社の仕入を、同じレートで直しておくためです。そうしないと、グループの中の取引を消すときに、レートの違いで差が残ります。この照合の話は、グループ会社間の取引が合わないときの記事にも書きました。
決算書で、為替換算調整勘定の行を見てください
海外に子会社を持つ上場会社なら、連結包括利益計算書にこの行があります。
その期にいくら動いたか。そして、純資産の部に、累計でいくら積み上がっているか。円安の年は大きく増え、円高の年は大きく減ります。利益には出てこない為替の影響が、そこに表れています。
