なぜいまオリオンビールが買われるのか?(買収目的を探る)



オリオンビール買収の目的を探る

野村ホールディングスと投資ファンドの米カーライル・グループが国内ビール系飲料5位のオリオンビール(沖縄県浦添市)を買収する方針を固めました。

2019年1月19日の日経新聞の報道では、目的は海外事業を成長させるためとありますが、本当にそうなのでしょうか。

私なりの見方を探ってみました。

オリオンビール概要

沖縄ビール株式会社として、1957年5月に設立されました。

筆頭株主は、2002年に資本・業務提携をしているアサヒビール株式会社で、持分を10%持っています。

第2位は、地元で不動産賃貸業を営む株式会社幸商事で8.54%を持っています。その他の株主も地元沖縄県の企業・個人がほとんどです。これはもともと沖縄経済振興のために作られた企業だからです。

国内ビール系市場のシェアは0.9%にとどまりますが、沖縄県内シェアは50%以上あります。一方で、沖縄県外のシェアはほとんどありません。

名護市にビール工場を持っているほか、ホテルやゴルフ場も保有しています。

なお、「オリオンビール」というブランド名は県民からの公募によって決定されました。社名はあとから変更されています。

ビール市場

国内ビール市場は、1994年をピークに縮小を続けています。

2018年のビール系飲料の総出荷量は、前年比2.5%減の3億9390万ケース(1ケースは大瓶20本換算)でした。

そこで、ビール各社が狙っているのが、海外市場です。

ビール消費量の多い米国や中国はもちろん、アサヒビールは欧州、キリンビールはミャンマー、サッポロビールはベトナムなどに販路を拡大しています。

オリオンビールも、米国や韓国に輸出を行っています。

買収する魅力はあるのか?

上記に挙げたように、国内ビール市場は右肩下がりにあるなかで、オリオンビールが国内で今以上に成長することは不可能といってもよいでしょう。

また、海外事業を成長させるといっても、日本国内で1%のシェアも持たない企業が、海外でどれほどの成長が図れるというのでしょうか。

狙いは他にあるのではないかと思っており、それを探るために私が注目したのが次の3つのポイントです。

ポイント(1)酒税改定

ビール類にかかる酒税は、3段階の改定を経て2026年10月に350ml缶あたり54.25円に一本化されます。

その第1段階が2020年10月になります。

この酒税改定により、ビールは値下げ、第3のビールや発泡酒は値上げになる方向で、ピール市場の競争環境が大きく変わるだろうと見込まれています。

また、オリオンビールは沖縄県特有の酒税軽減措置を受けています。この軽減措置の期限が2019年5月までの予定でしたが、2年間延長されることが決定しています。

この軽減措置による節税効果だけでも、億単位になるのではないかと思われます。

ポイント(2)沖縄県シェアNo.1

オリオンビールは沖縄県内シェアは50%以上を占めており、圧倒的なナンバーワン企業です。

沖縄県の人口は145万人ですが、オリオンビールを知らない人がいないのではないでしょうか。地域限定とはいえ、この知名度、人気度を作り上げるのは一朝一夕にできることではありません。

沖縄には似たような位置付けの企業として、沖縄セルラー電話株式会社(ジャスダック上場)があります。

こちらはauを展開しているKDDI株式会社の連結子会社ですが、沖縄ではオリオンと同じようにドコモを抜いてシェアナンバーワン企業となっています。

ポイント(3)財務優良企業

オリオンビール株式会社は非上場企業ですが、有価証券報告書の提出会社です。

したがって、誰でもEDINETでオリオンビール株式会社の財務諸表等を見ることができます。(会社の公式サイトには載せていませんので、知っている人に限られますが。)

2018年3月期は、連結売上高283億円、営業利益30億円、当期純利益23億円。

過去5年でみても、赤字などはなく、安定的に利益を生み出している企業です。

純資産534億円、自己資本比率80%と、財務的にも優良企業であることがわかります。

主力の酒類・飲料事業以外にも、ホテル事業とゴルフ事業を展開していますが、どちらもしっかりと黒字を出しています。

財務諸表の監査を担当しているのは、那覇市久茂地にある「くもじ監査法人」です。

なお、くもじ監査法人の詳細はわかりませんが、上場企業の監査は実施していないことからも、監査品質は大手監査法人に比較して劣るものと思われます。

いまのままで問題ないのでは?

今回の買収について、オリオンビール株式会社は「常に様々な選択肢を検討している」とコメントしています。

わたしが挙げた3つのポイントをみてわかるように、オリオンにとっては現在切羽詰まった状況にあるわけではありません。

昨年はオリオンビール奨学財団を設立して、奨学金事業をスタートさせるなど社会貢献にも力を入れはじめたぐらいです。

地元からも愛される企業として、いまのまま頑張っていれば何の問題もないのです。

しかし、それでは答えにならないので、頭をひねって考えたのが3つの仮設です。

仮説(1)世界ビール大手の日本進出の第2ステップ

世界ビール最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABInbev)は、2015年に日本法人ABIジャパンを設立しました。

それから2017年までは目立った動きをしていませんでしたが、2018年に動き始めました。

自社ブランドのビールである「ヒューガルデン」「ステラ・アルトワ」「レフ」を直接販売するようになったのです。

次に動くとしたら、やはり国内ビール会社の買収でしょう。しかし、国内大手4社のうち、3社は上場企業ですし、非上場のサントリーは米ビーム社との関係で簡単に手は出せません。

そこでオリオンが俎上にあがるわけですが、現在のオリオンビールは株主数が約600名もいて、買収手続きが煩雑です。ファンドが綺麗にお膳立てをしてあげるのではないかと考えられます。

仮説(2)国内最大手アサヒビールとの統合準備

オリオンとアサヒは、2002年に資本・業務提携を締結しています。

提携内容は、大きく分けて2つです。

オリオンビールが沖縄地域で「アサヒスーパードライ」をライセンス生産することとアサヒ製品を売ること、そして、アサヒビールが沖縄地域以外でオリオンビールを売ることです。

しかし、よくみると、アサヒビールが沖縄地域以外で売るオリオンビールは「アサヒオリオンドラフト」というアサヒを冠したブランドのオリオンビールなのです。缶にしっかりとAshahiと印字されています。

当然ですが、オリオンが沖縄地域で売る「アサヒスーパードライ」にはOrionの文字はありません。このような関係からもアサヒの意向が見て取れます。

資本・業務提携から今年で17年が経過しますので、そろそろ次の動きを考えていてもおかしくない時期です。

しかも報道によると、アサヒビールとの提携は続けるとのことですので、このままの流れでアサヒが飲み込んでしまっても何ら不思議ではありません。

仮説(3)株式上場を目指す

ファンドの最終的な狙いは、お金です。

海外展開、製品開発、地元貢献は、お金を生み出すための手段に過ぎません。

オリオンの財務諸表からはIPOによるエグジットができる確率が高いです。

ビール市場が縮小しているとはいえ、成熟したビール事業が生み出すキャッシュが潤沢にあります。

純資産500億円企業ですので、東証一部に上場してもおかしくないでしょう。

沖縄銀行、琉球銀行、サンエー、沖縄電力(以上4社は東証一部)、沖縄セルラー電話、に並ぶ沖縄で圧倒的な知名度を誇る上場企業となる日も近いかもしれません。

ひとこと

沖縄は日本の中でも異色の地域で、注目度も高い地域です。

沖縄に訪れる観光客も増え続け、1000万人達成も近いようです。

2018年の秋、安室奈美恵さんは、ファイナス・ステージを故郷・沖縄で開催しました。

2019年の夏、セブンイレブンが沖縄に初出店します。

オリオンビールはどういう道をたどるのでしょうか。