定款を読んだことがない経理担当者へ

正直に言います。入社して2年間、定款を一度も読んだことがありませんでした。

「経理の仕事と定款って、関係なくない?」——そう思っていたんです。仕訳を切って、請求書を処理して、月次を締める。それで十分だと。

その考えが甘かったと気づいたのは、上司に「この支出、定款の目的に入ってる?」と聞かれたときです。答えられなかった。定款を見たことすらなかったから。


定款って、どこにある書類なの

まずここから詰まる人、意外と多いと思います。

定款は会社設立時に公証役場で認証を受け、法務局に登記された文書です。会社の「憲法」と呼ばれることもあります。社内では、総務や法務が管理していることが多いですが、電子定款で保管している会社も増えています。

経理担当なら、一度は「うちの定款ください」と総務に声をかけてみてください。「なんで経理が?」と言われたら、「事業目的の確認がしたくて」と答えれば大抵もらえます。


経理が気にすべき箇所はここだけ

定款を全部読む必要はありません。経理の観点で押さえるべき箇所は、ざっくり3つです。

箇所 なぜ気にするか
事業目的 この範囲外の支出は税務上グレーになりやすい
資本金・発行可能株式総数 増資・減資・配当の処理で参照する
決算期・役員報酬の定め 役員報酬の損金算入に関係する

特に「事業目的」は実務でよく効いてきます。


「目的外の支出」で税務リスクが出る話

私が以前勤めていた会社で、新しい事業を始めようとしたときのことです。

営業部門が「来月から始めたい」と動き出していたのですが、経理で確認したら、その事業が定款の目的に一言も書かれていませんでした。「コンサルティング業」みたいな広い書き方もなく、完全に空白。

この状態で事業を進めると、関連する支出が「会社の事業に関係ない支出」として税務上に否認されるリスクが出てきます。それだけじゃなく、定款に書かれていない目的で取引をすること自体、会社法上も好ましくない。

結局、定款変更の特別決議を株主総会で行い、法務局に変更登記してから事業開始——という順番になりました。それ自体は正しい手順ですが、「来月から始めたい」という計画はずれ込みました。あのとき誰かが定款を確認していれば、もっと早く動けていたはずです。


定款変更は「重い手続き」だと知っておく

定款を変えるのは気軽にできません。

株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要で、内容によっては法務局への変更登記も伴います。登記費用も発生します。

経理として知っておきたいのは、変更が決まった後の話です。

  • 事業目的が変わった → 翌期から税務申告書の「事業の種類」を見直す
  • 資本金が変わった → 均等割(地方税)の計算が変わる場合がある
  • 決算期が変わった → 申告期限・消費税の基準期間がずれる

「定款変更しました」という一報が来たとき、経理としてノーアクションでいいわけではないんです。


舞台裏でわかったこと

定款は「法務の文書」で経理には関係ない、という思い込みが一番危ない。

経理が定款を気にする理由は、難しい法律の話じゃなくて、シンプルです。会社がやっていいこととやっていないことの境界線が、そこに書いてあるから。その境界線を知らずに処理していると、いつか「あの支出、問題ありますよ」と言われる日が来ます。

定款、一度でいいから読んでみてください。A4で数枚、30分もあれば読めます。読んだあと、「ここが経理に効いてくるのか」という箇所がきっと見つかります。

そこからが、本当の意味での経理パーソンとしての仕事の始まりだと、今は思っています。