IFRSの棚卸資産について押さえたい内容は?
IFRSの棚卸資産について押さえたい内容は?
IFRSを学ぶ中で、「棚卸資産」は一見すると地味だが、実務では非常に重要なテーマだ。売上原価や利益に直結し、評価の考え方ひとつで業績の見え方が大きく変わる。IAS第2号は、その棚卸資産をどのように捉え、測定し、費用化するのかを比較的シンプルな原則で示しているが、実際に理解しようとすると意外に奥が深い。
まず押さえておきたいのは、IFRSにおける棚卸資産の範囲だ。棚卸資産とは、通常の営業過程で販売を目的として保有する商品や製品、製造途中の仕掛品、そして生産やサービス提供に用いられる原材料や消耗品を指す。金融商品や農業に関連する生物資産などは対象外とされており、「販売を通じて回収される資産かどうか」が基本的な判断軸になっている。
次に重要なのが測定の考え方である。IFRSでは、棚卸資産は「取得原価」と「正味実現可能価額」のいずれか低い方で測定する。ここにIFRSらしい保守的な思想がよく表れている。取得原価には、購入原価だけでなく、加工費や現在の場所・状態にするために必要なコストが含まれる。一方で、非効率な生産による無駄な原価や、販売活動・一般管理活動に関する費用は、原則として原価には含めず、発生時に費用処理される。
特に実務で悩みやすいのが製造間接費の扱いだ。IFRSでは、固定製造間接費は「正常操業度」に基づいて配賦することが求められる。操業度が低下している場合でも、配賦額を増やして原価を押し上げることは認められない。この点は、日本基準との考え方の違いを強く意識させられる部分でもある。
原価算定方法については、先入先出法(FIFO)または加重平均法が認められており、LIFOは使用できない。同種・同用途の棚卸資産については、方法を首尾一貫して適用することが求められる点も重要だ。会計方針の一貫性は、IFRS全体を通じた基本姿勢といえる。
もう一つの柱が、正味実現可能価額による評価だ。市場価格の下落や商品の陳腐化、損傷などにより、原価が回収できないと見込まれる場合には評価減を行う。評価減は費用として認識され、利益に直接影響する。ただし、その後に状況が改善すれば、評価減の戻入れが認められる点もIFRSの特徴だ。ただし戻入れは、あくまで当初の取得原価を上限とする。
棚卸資産は、販売された時点で売上原価として費用化される。また、評価減や廃棄による損失も、発生した期間の費用として処理される。つまり、棚卸資産は「将来の収益獲得のために一時的に滞留している原価」であり、その回収可能性を常にチェックすることが求められている。
最後に開示も忘れてはならない。採用している会計方針、棚卸資産の内訳、費用認識された金額、評価減および戻入額、担保に供している棚卸資産など、利用者が実態を理解するための情報開示が求められる。
IFRSの棚卸資産会計は、細かなルールよりも「原価は本当に回収できるのか」「将来の便益につながっているのか」という問いを常に突きつけてくる。だからこそ、単なる基準の暗記ではなく、事業の実態をどう会計に映すかという視点で向き合うことが、何より大切なのだと感じる。